相続放棄による負債整理

はじめに

1 相続放棄を検討すべき事案

事案(1)

 父親が多額の借金をしており、父親死亡後に、父親の借金の債権者であるという会社や銀行から、父親の相続人である子供に対して、父親の借金の返還請求が届いたが、その借金を返済する経済力も意向も無い場合。

 

事案(2)

 交流の無かった親族が死亡し、その親族が滞納した税金を相続人である自分に支払って欲しいと、ある地方自治体から書類が届いたが、その税金を支払う意向が無い場合。

 

 このように、被相続人の債権者から請求が来た場合、相続放棄によって負債整理を出来ないか検討すべきといえます。

相続放棄とは

1 相続放棄の意義

 相続放棄とは、相続人が自己に生じた相続の効果を全面的・確定的に消滅させる意思表示をいいます。

 そして、この相続放棄は、相続人が自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内(熟慮期間内)に、家庭裁判所に申述という方式で行う必要があります(民法938条)。

 

 この相続放棄の効果により、相続放棄した相続人は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなされます(民法939条)。

 その結果、被相続人の預貯金や不動産といった積極的な相続財産、被相続人の借金といった債務を一切承継しないことになります。

 

 裁判所が出している司法統計によると、平成28年の全家庭裁判所の相続放棄の申述の受理の新受件数は、19万7656件となっており、増加傾向にあります。

2 相続放棄による負債整理

 先の事案(1)(2)でいえば、相続人が相続放棄をすることによって、借金の返済義務も税金の納付義務も、相続人は負わないことになります。

 そのため、相続放棄は、負債の整理方法としても利用できます。

 

3 かつての相続放棄の利用方法など

 かつて、相続放棄は、農業などの家業を承継する後継者である相続人に単独相続させるために用いられたとされていますが、その後の1950年の相続税法の改正により、相続放棄によって遺産を一人に集中すると税率が上昇すること、均等相続の理念の普及や事実上の相続放棄によって単独相続に近い効果を得られることなどから、このタイプの相続放棄は激減したといわれています。

 

 なお、現在(平成30年7月6日時点)の相続税法15条2項かっこ書きでは、相続放棄をしても相続放棄がなかったものとして、基礎控除を算定しています。

 

 参考文献

  • 潮見佳男『相続法[第5版]』(弘文堂、2014年)49頁
  • 二宮周平『家族法[第4版]』(新世社、2013年)303頁
  • 谷口知平、久貴忠彦編『新版注釈民法(27)[補訂版]』(有斐閣、2013年)620頁

相続放棄の手続の流れ

1 相談・依頼

 弁護士に相続人の方が抱えている問題状況を相談して頂き、相続放棄をするのか否か、弁護士に相続放棄手続を依頼するのか否かを決めて頂きます。

 

2 相続放棄の手続

(1)資料収集、書類作成

 資料取集として、被相続人の死亡記載のある戸籍謄本(事案により、被相続人が生まれててから死亡時までの戸籍謄本、除籍謄本、改製原戸籍謄本)、住民票の除票・戸籍附票、申述人の戸籍謄本、代襲相続人の場合は、被代襲者の死亡の記載の戸籍のある戸籍謄本など事案に応じた必要書類を漏れなく、収集します。

 また、相続放棄の申述書も作成します。

 

(2)相続放棄の申述

 相続開始を知った時から3か月以内に、相続開始地の家庭裁判所のへ相続放棄申述書、添付書類、申述費用(収入印紙を申述人ごとに800円と、指定された郵券(群馬県では、郵券は266円です。))を提出することで、相続放棄の申述をします。

 

(3)家庭裁判所による申述受理の審判

 家庭裁判所が、相続放棄の申述を受理するときは、申述の受理の審判がなされます。

 

(4)相続放棄の申述受理の通知書の送付

 相続放棄の申述の受理の審判がなされたときは、裁判所書記官は、当事者及び利害関係人に対して、通知をすることになっています(家事事件手続規則106条2項)。

 そのため、一般的には、裁判所書記官が相続放棄の申述受理の通知書を作成して、普通郵便で送付をしてくれます。

 

(5)受理証明書の交付

 被相続人の債権者によっては、本当に相続放棄がなされているのかを証明する「相続放棄申述受理証明書」を求める場合があります。

 その場合には、家庭裁判所に「相続放棄申述受理証明書」の交付申請をして、「相続放棄申述受理証明書」を入手します。

 証明事項1つにつき、収入印紙150円が必要となります。

 

3 被相続人の債権者への通知

 家庭裁判所から相続放棄の申述受理の通知書の写しや、場合によっては、相続放棄申述受理証明書を、被相続人の債権者へ送付通知することになります。

相続放棄の手続を弁護士に依頼するメリット

1 戸籍謄本などの必要書類を集める苦労から解放される

 相続放棄をするには、被相続人の戸籍謄本などが必要なので、戸籍謄本などを集めることになります。

 しかし、被相続人の本籍地が遠方であったりした場合や、被相続人が生まれてから死亡時までの戸籍謄本が必要になる場合で、本籍地を何度も移していた場合など、仕事や家事などで平日忙しい中で、必要な戸籍を集めるのは、大変かと思われます。

 

 また、被相続人の除籍謄本や改製原戸籍謄本などを郵送申請したり、そのために定額小為替を購入したりといった慣れないことをするは、面倒かと思います。

 

 さらに、相続放棄の申述は、相続開始を知った時から3か月以内に行う必要があり、スピーディに行う必要もあります。

 

2 書類作成や必要なものの準備整理など面倒な手続きを行ってもらえる

 相続放棄の手続きは、相続放棄の申述といって、被相続人の最後の住所地を管轄している家庭裁判所へ、必要事項を記載した申述書を作成し、必要書類を提出する必要があります。

 また、所定の収入印紙と各家庭裁判所が決めている郵券を納める必要もあります。

 

3 司法書士と違い、家庭裁判所との連絡などは、弁護士が対応

 司法書士も、相続放棄の手続へ関与されていますが、関与の仕方は書面作成に留まり、家庭裁判所が書類の不備に気付いた場合や疑問点を持った場合は、本人へ連絡がなされることになります。そのうえで、補正等をどのように行うのか対応することになります。

 

 これに対して、弁護士が代理人として相続放棄手続をする場合は、家庭裁判所からの連絡は、代理人である弁護士へ連絡がなされることになります。

 

 相続人の方が、お仕事などで平日忙しい中、家庭裁判所からの電話連絡などに対応するのは、負担かと思います。家庭裁判所からの電話連絡は、通常平日の日中になされることが多いからです。

 

4 被相続人の債権者との連絡のやり取りから解放される

 被相続人の債権者からの連絡のやり取りについては、代理人弁護士が入ることによって、以降は代理人弁護士が被相続人の債権者との連絡の窓口になるので、被相続人の債権者との連絡のやり取りから解放されます。

相続放棄をする場合の注意点

1 事実上の相続放棄では、債務を免れない

 時折ある誤解として、相続人の方が、正規の相続放棄をしていないにもかかわらず、自分は、相続放棄をしていると述べる人がいます。

 被相続人の遺産分割において、正規の相続放棄をせずに、何も財産を得なかったことを相続放棄と考えていることがあります。

 これは、「事実上の相続放棄」と呼ばれていますが、上記で説明してきた相続放棄ではありません。

 この「事実上の相続放棄」では、被相続人に債務(借金など)があった場合、プラスの財産を得ていなくても、各相続人は、自己の法定相続分に応じた被相続人の債務を、相続します。

 そして、この場合、もはや、負債を免れるために相続放棄をすることはできません。

 

2 法定単純承認が生じる場合に対する注意

 以下の場合には、法律上、相続人は単純承認したとみなされますので、気を付ける必要があります(民法921条)。

 相続について、法定単純承認となると、相続放棄ができなくなるからです。

 

(1)相続財産の全部または一部の処分(民法921条1号)

 相続財産の処分行為があったという事実から、相続人による相続の単純承認があったものとみなされます。

 そのため、相続放棄前に相続財産を処分すると、相続を単純承認したとして、相続放棄が出来なくなりますので、注意が必要です。

 処分行為には、相続財産(遺産)を売却したり贈与したりするだけではなく、相続財産を破壊する行為を含むことにも気を付ける必要があります。

 また、相続財務の弁済をするために、相続財産である預貯金を引き出すことは処分に該当するので、避けるべきです。相続人自身の財産から行うほうが安全かと思われます。

 

(2)熟慮期間の経過(民法921条2号)

 相続人が限定承認や相続放棄をしないまま熟慮期間を経過したときは、相続を単純承認したものとみなされます。

 そして、熟慮期間は、相続人が自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内であることから、この期間内に相続放棄の申述を家庭裁判所に行う必要があります。

 

(3)背信行為(民法921条3号)

 相続人が、限定承認または相続放棄をした後であっても、相続財産の全部若しくは一部を隠匿し、私にこれを消費し、又は悪意でこれを相続財産の目録中に記載しなかったときは、相続を単純承認したものとみなされます。

 これらの行為は、被相続人の債権者への背信行為であり、このような場合に相続放棄の利益を相続人に与える必要が無いからです。

 そのため、相続放棄も相続財産の管理には注意をする必要があります。

 

3 生命保険と相続放棄の関係

 生命保険金の給付請求権は、被相続人の相続財産ではなく、受取人固有の権利と考えられていることから、被相続人を被保険者とする保険金受取人となっていた方が、相続放棄をしても、保険金を受け取ることは可能です。

 

4 相続放棄をした後の相続人

 被相続人の直系尊属、被相続人の兄弟姉妹、姪甥が、この順序で相続人となります(民法899条)。

 そのため、被相続人の債務(借金)も、この順序で承継されるので、全員が債務を免れるためには、この順序で全員相続放棄の手続きをすることになります。

 なお、相続放棄した者の子は、代襲相続人となりません。そのため、相続放棄の手続は不要となります。

 

5 相続放棄の有効・無効の判断について

 家庭裁判所の相続放棄の申述が受理されたとしても、その相続放棄が、有効なものか否かは、最終的には、被相続人の債権者と相続放棄をしたとする相続人間の訴訟手続で、判断されます。

 そのため、相続放棄が無効と考える被相続人の債権者は、相続人を相手に訴訟を提起することになります。

 相続放棄の申述をしても、相続放棄の効力が認められない場合もありますが、相続放棄の申述をせず、何もしないと相続を単純承認したことになり、相続人が被相続人の債務を負うことになります。

弁護士費用について

相続人一人からの依頼の場合

11万円(税込)
 二人以上の相続人からの依頼の場合 一人につき5万5000円(税込) 
  1. 上記弁護士費用とは別に、必要書類などの取得費用などの実費は、別途いただきます。
  2. 上記の相続放棄の受理の申述の弁護士費用には、①受理証明書の交付申請、②債権者とのやり取り、③債権者への通知も、上記の弁護士費用に含まれます。
  3. 相続放棄の手続を依頼される場合は、法律相談料は不要となります。

群馬県で、高崎で、相続放棄をお考えの方は、こちらの「問い合わせ」をどうぞ。